なぜ無人でコンビニを運営できるのか?決済と商品補充がカギを握る

コンビニの店内に店員を配置しない無人コンビニが注目されています。

コンビニ大手のファミリーマートは、2024年度末までに無人コンビニを1,000店にすると表明(※1)。同社はそのために、無人決済システムをつくっている会社と業務提携する力の入れようです。

なぜコンビニは無人化を急ぐのか、そして、なぜコンビニを無人で運営できるのかを解説します。

※1:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC134YS0T10C22A9000000/

無人コンビニとは~なぜ店員ゼロで運営できる

無人コンビニには店員がいないので、普通の店舗で店員が行っている仕事を機械やコンピュータで行わなければなりません。

コンビニ店員の重要な仕事は決済と商品の補充です。

コンビニは定番商品が多く、店内構成がフォーマット化されているので、「店側では」スーパーマーケットほどバイヤー業務や商品棚のレイアウトが重要業務になりません。

もちろん、コンビニでもバイヤー業務や商品棚レイアウトは重要ですが、それらは本部であるコンビニ会社(フランチャイザー)の仕事であり、店側(加盟店、フランチャイジー)はあまりタッチしていません。

そのためコンビニは、決済と商品補充を自動化できれば無人化できるので、スーパーマーケットより先にコンビニで無人化が先行しています。

不正対策と商品不足対策がカギ

販売形態を高度化、合理化して、極限まで店舗運営をシンプルにしたコンビニですが、それでも無人化するには不正対策と商品不足対策が必要でした。

無人店舗と聞いて誰もが懸念するのが、万引きなどの不正でしょう。犯罪集団に襲撃される事態は滅多に起きないこととして想定から外したとしても、ペットボトルのお茶を3本手にして2本分しか支払わないタイプの不正にはきちんと対処する必要があります。

また機械の誤作動で、客がペットボトルを2本しか手にしていないのに、3本分の代金を請求することも許されません。

したがって、客が手にした商品の代金だけを確実に請求し、確実に支払ってもらうシステムが必要になります。それを実現するのが、商品を検知するシステムと高度な自動決済システムになります。

そして、商品が不足したときに人が補充する形態が残っていては、決済を無人化しても人件費の抑制効果は限定的になってしまいます。

そのため無人決済システムと同時に、無人商品補充システムも導入する必要があります。

不正対策と商品不足対策をクリアできたことで無人コンビニが実現しました。

コンビニの無人化は生き残り策

コンビニが無人化を進めるのは、競争が激化している小売業界で生き残るためです。大手3社の動向を確認しましょう。

セブンイレブンはあえて省人化

コンビニ最大手のセブンイレブンは、同社の幹部が2018年に「無人コンビニには興味がない」と表明していますが、しかし省人化には力を入れています(※2、3)。

省人化とは、無人にまではしないが極限まで人を減らすこと。無人化にすると客との接点がなくなってしまうので、セブンイレブンはあえて省人化を目指しています。

セブンイレブンは省人化と同時に、販売のクオリティを下げない工夫をしています。

それを象徴しているのが、フルセルフレジではなく、セミセルフレジを導入したことです。フルセルフレジにすると商品登録も袋詰めも客任せにできますが、それでは接客できません。セミセルフレジなら店員が商品登録と袋詰めをするので、このとき客と対話することができます。それが終われば客に精算(支払い、決算のこと)を任せればよいのです。

セブンイレブンは、店員の作業負荷や作業時間を減らせるシステムを導入して、生産性と効率性を高めようとしています。これは無人コンビニの狙いと同じです。

ローソンは部分的無人、限定的無人を模索

ローソンは深夜に限って店員を置かない部分的無人化を進めています。また、ビルに入居している企業の従業員専用にビル内にコンビニを設置し、そこに店員を置かない限定的無人化にも取り組んでいます(※4、5)。

したがってローソンは、完全無人化を目指すファミリーマートと、省人化でしのごうとしているセブンイレブンの中間に位置します。

ファミマの挑戦「売上が半減しても成り立つ店をつくる」

セブンイレブンやローソンと比較すると、無人コンビニを1,000店つくると表明しているファミリーマートが、大手のなかでは最も無人化に熱心であるといえそうです。

なぜファミリーマートは無人化に投資をするのでしょうか。その背景にはファミリーマートの危機感がありました。

3位からの脱却というより、3位でも利益を確保する戦略か

ファミリーマートには顧客単価が低いという大きな課題があります。3社の比較は以下のとおり(※6)。

■コンビニ大手3社の顧客単価(1枚のレシートの平均単価)

セブンイレブンとの比較ローソンとの比較
セブンイレブン(586円)5.4%
ローソン(556円)-5.1%
ファミリーマート(502円)-14.3%-9.7%

トップは王者セブンイレブンの586円。これに対し、ファミリーマートはその14.3%安の502円です。

またローソン(556円)と比較しても、ファミリーマートは9.7%安です。

仮にコンビニ運営コストが3社で同じであるとすると、セブンイレブンは最も利益を出しやすく、ファミリーマートは最も利益が出しにくいといえます。

※6:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1912/20/news070.html

運営コストを下げると好立地出店も出店増も可能になる

そこでファミリーマートが打ち出した戦略が「売上が半分になっても利益が出る」店舗づくりです(※1)。

それには究極のコストダウン策である無人コンビニが必要でした。

ファミリーマートによると、レジ回りの業務は、店舗全体の業務量の30~40%にもなるそう。無人決済システム(無人レジ)を導入すればそれをほぼゼロにできます。

さらに商品棚に商品を補充する業務も無人化できれば業務量はさらに減ります。

店舗運営コストを下げる狙いはまだあります。

それは店舗家賃が高額になる、人が集まる場所に出店できることです。運営コストを下げて浮いた経費を家賃に回すことができます。つまりこれまでファミリーマートが出店できなかった場所に店舗を置くことができます。

また、浮いた経費を出店経費に回せば、出店スピードを上げることができます。

コンビニ本部の売上と利益は店舗数に比例するので、これは競争力を強化することにつながるでしょう。

無人コンビニを支える技術をつくっている会社

ファミリーマートの無人コンビニを支える無人決済システムは、株式会社タッチトゥゴー(本社・東京都港区)がつくっていて、無人商品補充システムは、東京大学発ベンチャーのテレイグジスタンス社(住所・東京都中央区)がつくっています。

それぞれの特徴を紹介します。

タッチトゥゴーの無人決済システムの実力

ファミリーマートとタッチトゥゴーは2020年に業務提携を締結しています(※7)。

タッチトゥゴーは、センサーを店全体に張り巡らせることで無人決済を実現しました(※8)。

1つの店舗に数十台のセンサーカメラを取りつけ、商品と客の動きをとらえます。それで、客が手に持った商品の種類と個数がわかるだけでなく、客が一度手にした商品を棚に戻したことも検知します。

客が商品を持って決済エリアに立つと、目の前のモニターに商品名と金額が表示されます。その内容に間違いがなければ、無人レジ機で現金やキャッシュレスなどで支払いを済ませて買い物が終わります。

コンビニのレジで店員が行う「バーコードにピッ」も必要ありません。

テレイグジスタンスの無人商品補充システムの実力

テレイグジスタンスの無人商品補充システムはまだ、すべての商品の陳列ができるわけではありません。できるのは、冷蔵庫のなかの飲料の補充です。

コンビニの飲料用の冷蔵庫は、店内側とバックヤード側にドアがついていて、客は店内側のドアを開けて商品を取り、店員はバックヤード側のドアを開けて商品を補充します。

無人商品補充システムでは、バックヤード側にロボットがいてそれが商品を補充していきます(※9)。

※9:https://tx-inc.com/ja/technology-jp/

まとめ~ますますコンビニエンスに

都会に住んでいる人や都会で働いている人は、コンビニが家や会社から歩いて10分の距離にあると「遠い」と感じるのではないでしょうか。

この不満は、スーパーマーケットや美容室には感じないはずです。つまり「近くにあること」は、コンビニのサービスの1つになっています。

しかし店舗が乱立したことで、コンビニは売上を伸ばすことも利益を増やすことも難しくなっています。

無人コンビニはその打開策になるかもしれません。 そしてそれは、コンビニのヘビーユーザーである生活者の利便性を向上させるはずです。