【暗号資産】未来のお金になると期待される理由とあまり普及しない理由
ビットコインなどの暗号資産は、ITを駆使した革新性と世界統一基準で使える公平性から未来のお金になるといわれています。日本銀行が、暗号資産と関係が深いデジタル通貨の研究に取り組んでいるほどです(※1)。
しかし、暗号資産が話題になってだいぶ月日が経ちますが、日常生活に浸透してきたと実感している人は多くないのではないでしょうか。
この記事では、暗号資産の優れた点と深刻な課題について解説します。
(※1)https://www.boj.or.jp/announcements/release_2020/rel201009e.htm/
政府、日銀すら認める暗号資産の価値
暗号資産(当時は仮想通貨といっていた)は2016年に改正された資金決済法によって、初めて法制化されました。同法により、暗号資産と円(通貨)を交換するサービスを提供する企業は、金融庁に「暗号資産交換業者」として登録しなければならなくなりました。
これは、国が暗号資産ビジネスへの規制を強化したことを意味し、さらに、暗号資産が国の金融政策に大きな影響を与える存在になったことも意味します(※2、3)。
(※2)https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h29pdf/201716102.pdf
(※3)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/kasoutuka.pdf
日銀が研究しているデジタル通貨との相違点
暗号資産を正しく理解するために、日本銀行が研究を始めたデジタル通貨と比較してみます。
暗号資産もデジタル通貨も、インターネットでつながったコンピュータで決済データを扱い、金融事業を進めていくという点は同じです。決済とは、債権と債務をお金で解消することであり、コンビニでおにぎりを買って100円を支払えば決済したことになります。
ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、円やドルなどの法定通貨建てではない、という特徴があります。「法定通貨建て」とは「国の後ろ盾がある」という意味です。
例えば、10,000円札で10,000円分の食事ができるのは、日本銀行と日本政府が「10,000円札という紙には10,000円分の価値がある」と保証してくれているからです。暗号資産が法定通貨建てでないということは、ビットコインについて日本銀行も日本政府も後ろ盾していないということになります。
一方で、日本銀行が研究している「中央銀行デジタル通貨」は、法定通貨建てです(※4)。以上のことをまとめるとこのようになります。
●暗号資産とデジタル通貨は、デジタル化された通貨、つまりお金の価値があるデータである点は同じ
●中央銀行と政府は、中央銀行デジタル通貨の価値を保証するが、暗号資産は保証されない
ただ、日本銀行と日本政府の保証がないからといって、暗号資産の価値が減るわけではありません。むしろ、日本銀行が研究するシステムと似たものを暗号資産が持っていることは、高い価値があるといえます。
(※4)https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/money/c28.htm/
未来のお金になるだろうと思わせる力
暗号資産が未来志向であるといわれているのは、ブロックチェーンというコンピュータ技術を使っているからです。
スマホ決済や電子マネー、クレジットカードはデジタル技術やITを使っていますが、ブロックチェーンは使っていません。スマホ決済などのシステムも相当高度で相当優れたものですが、暗号資産のブロックチェーンはそれらとは次元が異なるものです。
例えば電子マネーは、10,000円分チャージすれば10,000円分の買い物ができます。これは、10,000円札で10,000円分の買い物をする取引を、デジタルデータに書き換えただけと考えることができます。電子マネーでは、チャージをしたり買い物をしたりすると、必ず10,000円札が動きます。
しかしブロックチェーンは、10,000円札が登場しません。それで金融や決済ができてしまうところが、ブロックチェーンの力です。
ブロックチェーンは10,000円札が動かない
暗号資産にも通貨の単位があります。例えばビットコインならBTC(ビットコインと読む)が通貨単位になります。しかしビットコインには、1BTCというお札も硬貨も存在しません。存在するのは、目に見えない、コンピュータのなかのデータだけです。
例えば、1BTCに300万円の価値があると仮定すると、1BTCを支払えば300万円の自動車を買うことができます。このとき、購入者と自動車販売店の間に起きることは、次の2つです。
●購入者のコンピュータのなかの1BTC分のデータが、自動車販売店のコンピュータに移る
●自動車販売店のコンピュータに1BTC分のデータが、購入者のコンピュータから移ってくる
このとき、日本銀行が発行する10,000円札は1枚も動きません。
しかし、通常のコンピュータでは、データの書き換えが可能なので「本当に購入者の1BTCが自動車販売店に移動したのか」という不安が残ります。自動車を円で買えば、物理的な物体である10,000円札300枚が、購入者から自動車販売店に移動するので、そのような不安はありません。
そこで暗号資産ではブロックチェーンを使っています。ブロックチェーンを使えば「本当に購入者の1BTCが自動車販売店に移動した」ことを保証することができます。
取引台帳のデータをブロックに分散して保存する
ブロックチェーンは、新しいコンピュータ・システムです。
暗号資産のすべての取引は、コンピュータ上の「取引台帳」に記録されます。しかし、すべての取引を取引台帳に書き込むことになるので、そのデータは莫大なものになり、1台のコンピュータに保管することはできません。
そこで、暗号資産では、取引台帳のデータを複数のブロックにわけて保存して、複数のコンピュータに保管します。複数のコンピュータはインターネットでつながっています。そして、複数のブロックを鎖(チェーン)のようにつないでいきます。
こうすることで、巨大なコンピュータを用意することなく、普段使っている小型のコンピュータで暗号資産の取引台帳をつくることができます。このシステムが、ブロックチェーンです。
ブロックチェーンが優れているのは、巨大なコンピュータを必要としないことです。巨大なコンピュータが必要になると、それを管理する組織をつくらなければなりません。ブロックチェーンなら、管理する組織が要りません。
もし、取引台帳のなかの1つのブロック(コンピュータ)で、取引内容の一部が不正に書き換えられたら、それにつながっているブロックがすぐに異変を察知します。ブロックチェーンを使えば、無人で取引を監視することができます。
そのため、自動車を購入した人の1BTCが自動車販売店に移動したら、ブロックチェーンが「本当に購入者の1BTCが自動車販売店に移動した」ことを保証することができるわけです。
投機目的で売買されるから通貨として使いにくい
ブロックチェーンは、コンピュータ界では画期的な発明品と考えられています。ビットコインなどの暗号資産がすでに世界中で運用されているのも、ブロックチェーンの機能が優れているからです。
しかし、暗号資産は、その知名度の高さの割には日常生活に浸透しているわけではありません。暗号資産が、なかなか一般の人々が気軽に使うことができるお金にならないのは、暗号資産の成り立ちに問題があります。
すべてなくなる覚悟が必要?
暗号資産の最大の特徴は、政府や中央銀行の後ろ盾がないことです。そのため暗号資産は国や地域の枠に縛られることなく、1つのルールで世界中の人が使うことができます。
日本という枠に縛られる円が日本でしか使えないことを考えると、暗号資産の自由度の高さがわかるでしょう。
しかし、政府や中央銀行の後ろ盾がないことが、暗号資産の普及を妨げています。イギリスの金融政策を担う金融行為監督機構は2021年に、暗号資産への投資について「資金をすべて失うことを覚悟しなければならない」と警鐘を鳴らしました(※5)。
最も有名な暗号資産であるビットコインは、当初1BTC1,000円程度の価値しかありませんでしたが、2021年に1BTC650万円にまで高騰しました。
こうした極端な動きがあることから、円やドルなどの通貨でビットコインを買って保管しておけば価値が上がると考える人が増え、暗号資産は投資対象になっています。イギリス金融行為監督機構が懸念しているのは、暗号資産への投資が、政府による投資家保護制度の対象になっていないことです。
いくつかの投資は、政府などの投資家保護制度によって守られています。日本にも投資家保護制度があって、例えば銀行が破綻しても、預金者の預金は1,000万円までは守られます。また、株式投資でも、投資家が「大損」しないような仕組みがつくられているうえに、国の機関が不正行為を監視しています。
しかし暗号資産は、暗号資産の考え方に賛同した人たちが、いわば「勝手に」データをやりとりしているだけなので投資家は保護されません。
(※5)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1143C0R10C21A1000000/
だれが暗号資産の価値を決めているのか
暗号資産の価値は、暗号資産の仕組みを使っている人たちが決めています。暗号資産を買い求める人が多ければ価値が上がり、暗号資産を売却する人が多ければ価値が下がります。
円やドルなどの法定通貨の価値は、政府や中央銀行の考え方や経済情勢などで決まります。さまざまな角度から調整が働くので、暴騰や暴落は滅多に起きません。
しかし暗号資産は、「価値がある」と考える人が増えると暴騰し、「価値がない」と考える人が減ると暴落します。それでイギリス金融行為監督機構が「すべてを失うかもしれない」といったのです。
トラブルが絶えない
日本の政府機関も、暗号資産に関するトラブルを警戒しています。金融庁、消費者庁、警察庁は2017年に、合同で「暗号資産に関するトラブルにご注意ください!」と呼び掛けました(※6)。
暗号資産のトラブルには次のようなものがあると指摘しています。
- 暗号資産交換所に預けてあるお金が出金できず困ってい
- 暗号資産のマルチ取引に誘われ消費者金融から借り入れ取引に参加したが、業者が破産し借金だけが残った
- 「4カ月で2.5倍になる」という暗号資産発行事業の投資を契約したところ、配当がなく、解約しても返金されず、事業者にも連絡がつかない
- 暗号資産は価格が変動することがあり、急落して損をする可能性がある
- 暗号資産や詐欺的なコインに関する相談が増えている
おいしい話には十分注意してください。
(※6)https://www.fsa.go.jp/policy/virtual_currency/04.pdf
まとめ~つかず離れず関心を持とう
暗号資産の明と暗を紹介しました。
ブロックチェーンというコンピュータ史に残る画期的な技術を使って運営される暗号資産は、未来のお金になる潜在能力を持っています。その一方で、適切なルールや規制がないまま巨大化してしまった暗号資産は、深刻なトラブルを引き起こすリスクをはらんでいます。
暗号資産については、自分には関係のないものと考えて遠ざけてしまうのも、「大儲けできそうだ」とのめり込むのも得策ではないようです。
つかず離れず関心を持ち続けるのがよいのかもしれません。