「d払い」と「楽天ペイ」は独走状態の「ペイペイ」の牙城を崩せるか?
マーケティングリサーチのMMDLabo株式会社によると、2022年のスマホ決済(QRコード)のシェア・トップ3は、ペイペイ45.4%、d払い16.7%、楽天ペイ16.7%でした(*1)。
現在のスマホ決済業界は「3強」時代であり、より厳密にいえば、独走状態のペイペイをd払いと楽天ペイが追う「1超強2強」時代といえます。
この記事では、2位3位のd払いと楽天ペイに注目します。この2つはペイペイの牙城を崩すことができるのでしょうか。
※1:https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2020.html
スマホ決済業界の勢力図
かつて玉石混交といわれたスマホ決済業界ですが、今は上位3社が頭1つ突き抜けた格好になっています。
4位のauペイのシェアは13.5%とかろうじて2桁を維持していますが、5位のメルペイになると3.0%まで落ちこみます(*1)。
QRコード決済(いわゆるスマホ決済)とは
スマホを使った決済(支払い)方式はいくつかありますが、「いわゆるスマホ決済」と呼ばれるのはQRコードを使った決済方法です。
QRコードを使ったスマホ決済(以下単にスマホ決済)は、利用者のスマホに表示したQRコードを買い物をした店に読み取ってもらって決済します。もしくは、店が提示したQRコードを利用者のスマホで読み取って決済します。
ペイペイ、d払い、楽天ペイももちろんこの方式を採用しています。
3つの所属母体の性質はかなり違う
トップ3のペイペイ、d払い、楽天ペイは、それぞれ大きな企業群に属しています。つまり単独でスマホ決済事業を行っているわけではありません。
そして3つの所属母体の性質はかなり異なります。
- ペイペイの所属母体:ソフトバンク系、ヤフー系
- d払いの所属母体:NTTドコモ
- 楽天ペイの所属母体:楽天
ペイペイはソフトバンク経済圏の一員で、そのなかにはスマホ・携帯のソフトバンクのほか、インターネット広告やECのヤフー、無料通話アプリのLINE、ファッション通販のZOZO、金融のペイペイ銀行、文房具のアスクル、フードデリバリーの出前館などがあります(*2)。
d払いは、スマホ・携帯シェア・トップのNTTドコモが運営しています。
2021年3月のスマホや携帯電話などの移動系通信のシェアは、NTTドコモ36.3%、KDDI(auなど)27.1%、ソフトバンク21.1%、楽天モバイル2.4%、その他13.1%となっていて、NTTドコモの強さは明白です(*3)。
NTTドコモは通信事業やシステム開発といったBtoBのITを得意としていて、さらに音楽や映像のコンテンツ事業も手がけています(*4)。
楽天ペイは楽天経済圏に属しています。楽天グループには、国内最大級のインターネットショッピングモールをはじめ、銀行、証券、カード、旅行、保険、プロ野球球団、プロサッカーチームなどがあり、やはり手広くビジネスをしています(*5)。
そして2020年から楽天モバイルというブランド名でスマホ事業にも進出しました。
このようにペイペイ、d払い、楽天ペイはスマホ決済トップ3だけあって、バックに本格的なキャリア会社(MNO、モバイル・ネットワーク・オペレーター、移動体通信事業者)がいます。
本格的なキャリア会社にはもう1社auのKDDIもあり、ここもauペイを運営していて、先ほど紹介したとおりスマホ決済シェアでは4位につけています。
*2:https://group.softbank/segments/group
*3:https://www.soumu.go.jp/main_content/000818328.pdf
*4:https://www.docomo.ne.jp/corporate/about/group/
*5:https://corp.rakuten.co.jp/about/group.html
d払いの戦略
それではペイペイを追うd払いの戦略をみていきましょう。
8個のキャンペーン(2022年8月現在)
d払いの戦略で注目できるのはお得なキャンペーンの多さです。2022年8月現在、少なくとも8個のキャンペーンが展開されていて、その内容は以下のとおり(*6)。
- ファミリーマートでd払いを使うと、抽選でポイントが30倍になる
- 対象企業のポイントをdポイントに交換すると、dポイントが10%増える
- 初めてd払いを使う人に1,000ポイントプレゼント
- d払いで500円以上支払うと抽選でポイントを全額還元
- ドコモのスマホを使っている人はd払いで最大3%ポイント還元
- タクシーでd払いを使うと最大2,500ポイント付与
- ファミリー割引が使える家族を紹介すると、紹介した人と紹介された人にそれぞれ500ポイントプレゼント
- ふるさとチョイスというECサイトでd払いで買い物をすると最大1,000ポイント還元
ファミリーマートやタクシー会社やECサイトといった異業種他社とのコラボが目立ちます。異業種他社であれば顧客をシェアしてもバッティングしないので、d払いとしても協力を仰ぎやすいでしょう。
また、ペイペイは大規模還元キャンペーンを矢継ぎ早に打ち出したことで顧客の取り込みに成功しました。キャンペーンにボリューム感が出てくると、どのスマホ決済を使おうか迷っている人の注目を集めることができます。d払いのこの大量キャンペーン戦略も物量作戦の1つといえるでしょう。
*6:https://service.smt.docomo.ne.jp/keitai_payment/
足元固めに余念がない
d払いの強みは、NTTドコモ自身です。
NTTドコモは日本最大のスマホ・携帯会社なので、スマホ・ユーザーはすでに大量に獲得しています。スマホ・ユーザーにスマホ決済を使ってもらうようにすることは、容易なはずです。
d払いは、電話料金と合算して支払うことができます。また、d払いで貯まったポイントを電話料金の支払いに使うこともできます。
NTTドコモ・スマホ・ユーザーをd払いユーザーにしていくのは、足元固め戦略といえます。
メルペイと連携、ライバルの顧客にも果敢に攻める
d払いは、他社のスマホ決済であるメルペイ(メルカリ)と連携しました。メルペイが使える店が提示しているQRコードを、d払いでも使えます(*7)。
また、他社のスマホでも、そのスマホでdアカウントを取得すればd払いを使えるようにしています(*8)。他社のスマホ決済の顧客も果敢に奪いにいっています。
*7:https://service.smt.docomo.ne.jp/keitai_payment/info/info_20200901.html
*8:https://service.smt.docomo.ne.jp/keitai_payment/
楽天ペイの戦略
続いて、やはりペイペイを追う楽天ペイの戦略を紹介します。
電子マネー「楽天キャッシュ」を介して金融サービスを充実
楽天ペイでは、楽天が運営している電子マネー「楽天キャッシュ」を使うことができます。
クレジットカードの楽天カードや楽天銀行を使って現金を楽天キャッシュに変えると、楽天ペイの支払いに楽天キャッシュが使えるようになります。
楽天は、楽天キャッシュを楽天ペイの支払いに使うと、還元率を高く設定しています。これで楽天キャッシュと楽天ペイの双方の利用者増を狙います。
さらに、貯まった楽天キャッシュで投資信託を購入できるようにしました。これは楽天が証券会社を持っているからできるサービスです。
プレイヤーを整理するとこのようになります。
- 楽天ペイ:スマホ決済
- 楽天キャッシュ:電子マネー
- 楽天カード:クレジットカード
- 楽天銀行:金融サービス
- 楽天証券:投資信託の販売
このように楽天は、楽天カード、楽天銀行、楽天キャッシュ、楽天ペイ、楽天証券をつなげる戦略を打ち出していて、これを「楽天の決済事業の中核」に位置づけています(*9)。
スマホ決済は、スマホからみるとIT機器の有効活用ですが、決済からみると金融サービスの拡充になります。
楽天は金融サービス全体を拡大させるために楽天ペイを使っている、ともいえるわけです。
*9:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0579I0V00C22A7000000/
セブンとも提携
d払いがメルペイとタッグを組んだように、楽天ペイも他社と組んでいます。その相手はセブンイレブンのセブン銀行です。
セブン銀行のATMで楽天キャッシュをチャージできるようにしました。
国内最大規模の小売業であるセブンイレブンと提携できたことは、楽天ペイの追い風になるでしょう。
ペイペイは独走状態を死守する構え
独走状態のペイペイは、死角をつくらないようにしています。
「ソフトバンクグループ傘下」から「ソフトバンク・Z傘下」に移す意味
ソフトバンク株式会社とZホールディングス株式会社は、ペイペイ事業を運営しているペイペイ株式会社を連結子会社にします(*10、11)。
ペイペイ株式会社は現在、ソフトバンクグループ株式会社の連結子会社になっています。
つまりペイペイ株式会社を「ソフトバンクグループ傘下」から「ソフトバンクとZホールディングスの傘下」に移し替えるわけです。
なぜわざわざこのようなことをするのか。
それは、ソフトバンクグループは投資会社であり、BtoCサービスを持っていないからです。
一方のソフトバンクはスマホ・携帯事業を持っていますし、ZホールディングスはヤフーやLINEを持っていていずれもBtoCサービスです。
スマホ決済はBtoCサービスなので、ソフトバンクグループより、ソフトバンク・Zホールディングスと連携したほうが相乗効果を生みやすいのです。
スマホ決済事業とBtoCサービスの連携は、d払いと楽天ペイも力を入れていて、同じことをペイペイもしていくことになります。
王者ペイペイは現状に甘んじることなく、独走状態を死守する構えです。
*10:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM279S30X20C22A7000000/
*11:https://about.paypay.ne.jp/about/
まとめ~現金ユーザーの取り込みが勝敗のカギ
冒頭に紹介したMMDLabo株式会社によると、個人の普段の支払い方法で最も使われているのは現金の84.8%で、スマホ決済は43.6%にすぎません(2022年、複数回答、*1)。
つまり「王者」「独走」といっても、ペイペイですらまったく現金にかなわない状態です。
ということは2位・3位に甘んじているd払いも楽天ペイも、現金ユーザーを取り込むことができれば十分ペイペイに対抗できるということになります。
もちろんペイペイも現金ユーザーの取り込みに力を入れることでしょう。
3社の攻防はこれからも目を離せません。