金融全般

「パナソニックと三井住友」「日立と三菱」はなぜノンバンクをつくったのか

金融機関というと、メガバンクや信用金庫などを真っ先に思い浮かべるかもしれませんが、一風変わった金融機関もあります。

例えば、三井住友トラスト・パナソニックファイナンス株式会社です(※1)。この会社は預金を扱わない金融機関で、ノンバンクと呼ばれます。

「三井住友トラスト」とあるので、三井住友信託銀行の関連だろうと想像できますが、「パナソニック」も含まれています。そうです、家電のパナソニックです。

そして三菱を冠した三菱HCキャピタル株式会社というノンバンクもあり、この「H」は日立製作所を意味します。

銀行がグループにノンバンクを持つことは珍しくなく、大規模事業会社が金融事業を行うことも違和感がないのですが、なぜ銀行と事業会社が一緒にノンバンクを経営しているのでしょうか。

実は「パナソニックと三井住友」と「日立と三菱」は古くからの付き合いであり、今でも強くつながっています。

※1:https://www.smtpfc.jp/company/about.html
※2:https://www.mitsubishi-hc-capital.com/

三井住友トラスト・パナソニックファイナンスの正体

三井住友トラスト・パナソニックファイナンスは、三井住友信託銀行が84.9%、パナソニックが15.1%出資している、ファイナンス事業などを手がけるノンバンクです。

同社の詳細を紹介する前に「三井住友」の少し込み入った事情を解説します。

3大メガバンクに三井住友銀行がありますが、これは株式会社三井住友フィナンシャルグループのメーン企業です。一方、三井住友信託銀行は、三井住友トラスト・ホールディングス株式会社の一員で、3大メガバンク・グループには含まれません。

しかし、その名のとおり、三井住友信託銀行も三井住友銀行も、旧財閥の三井と住友の流れをくんでいます。それでも三井住友フィナンシャルグループと三井住友トラスト・ホールディングは別の企業グループになっています。

この点を押さえたうえで、三井住友トラスト・パナソニックファイナンスの正体を探っていきましょう。

パナソニック系と三井住友信託銀行系が合併

三井住友トラスト・パナソニックファイナンスは2012年に発足したのですが、その前は住信・パナソニックフィナンシャルサービス株式会社という社名でした(※3)。

これ以降の解説では、長い社名の会社がたくさん登場するので、先に年表を紹介します。

 パナソニック系三井住友信託銀行系
1951年ナショナルラジオ月販が設立 
1985年 住信リースが設立
 社名が以下のように変更になる ●松下クレジットサービス ↓ ●松下クレジット ↓ ●松下リース・クレジット 
2005年住友信託銀行が資本参加したことで、社名を住信・松下フィナンシャルサービスに変更
2010年住信・松下フィナンシャルサービスと住信リースが合併して住信・パナソニックフィナンシャルサービスが誕生
2012年三井住友トラスト・パナソニックファイナンスに社名変更

住信・パナソニックフィナンシャルサービスは、2010年に、住信・松下フィナンシャルサービス株式会社と住信リース株式会社が合併して誕生しました。これが、パナソニック系と三井住友信託銀行系の合体になります。

ここからさらに時計を巻き戻していきます。

パナソニックは松下幸之助が創業し、ナショナルというブランド名を使っていました。それでパナソニックの歴史には「松下」や「ナショナル」という文字が出てきます。

ここで注目したいのは、住信・松下フィナンシャルサービスの社名です。すでに住友の「住」の字が入っています。

なぜ「住」の字が入っているのかというと、パナソニック系のノンバンクに、住友信託銀行(三井住友信託銀行の前身)が投資をしたからです。

2005年に社名変更した住信・松下フィナンシャルサービスは、その前身の松下リース・クレジット株式会社に住信(住友信託銀行)が資本参加したので、社名に「住信」をつけたわけです。

そして松下リース・クレジットの源流は、1951年にできたナショナルラジオ月販という会社になります。

ナショナルラジオ月販は、ナショナルの電化製品を月賦で買う人をサポートする会社です。月賦とはローンのことです。消費者がローンを組むことができれば、それほどお金を持っていなくてもナショナルの家電を買うことができます。人々がローンでナショナルの電化製品を買えば、ナショナルは儲かります。

だからナショナルは、ナショナルラジオ月販という金融企業、つまりノンバンクをつくりました。ここまでたどると、なぜ三井住友トラスト・パナソニックファイナンスが誕生したのかがわかります。

松下は自社の電化製品を売るために金融事業に乗り出してノンバンクをつくったものの、住友信託銀行の支援(投資、資本参加)が必要になりました。

一方、住友信託銀行は独自にノンバンクを持っていました。

それならば松下系ノンバンクと住友信託銀行系ノンバンクを合体させてしまおうと考えて、三井住友トラスト・パナソニックファイナンスが生まれました。

※3:https://www.smtpfc.jp/company/history.html

現在の事業はメガソーラーのリースやリフォームのローン

三井住友トラスト・パナソニックファイナンスの現在の事業はパナソニックとはほとんど関係ありません。

同社は例えば企業向けにリース・サービスを提供しています(※4)。

ある企業が巨大太陽光発電事業(メガソーラー事業)を手がけるとき、三井住友トラスト・パナソニックファイナンスのリース・サービスを利用すると、初期費用を抑えて始めることができます。

まず三井住友トラスト・パナソニックファイナンスが、メガソーラーを設計・建設する会社や、運用や保守をする会社と契約します。そしてメガソーラー企業は、それらの会社にメガソーラーの設計・建設をしてもらったり、運用・保守をしてもらったりします。

設計・建設会社と運用・保守会社への支払いは、三井住友トラスト・パナソニックファイナンスが行います。メガソーラー企業は三井住友トラスト・パナソニックファイナンスに対してリース料を支払います。

三井住友トラスト・パナソニックファイナンスはさらに、個人向けにリフォーム・ローンを販売しています。

※4:https://www.smtpfc.jp/example/001.html

その他のパナソニックと三井住友とのつながり

パナソニックと三井住友のつながりは、その他にもあります。

松下と住友不動産は1975年に、東京都新宿区にナショナルビルを建設しました。そこに松下電機産業(現パナソニック)の東京本社が入っていました(※5)。

ナショナルビルはその後、住友不動産が1社で所有することになり、同社は2018年にこのビルを建て替えました。その「住友不動産御成門タワー」は地下2階、地上22階、延べ床面積32,631平方メートルのビルで、地下鉄御成門駅に直結しています。

ただ、現在のパナソニックの東京本社は「住友不動産御成門タワー」のなかになく、品川区にあります。

そしてパナソニックの住宅会社のパナソニックホームズ株式会社は、三井不動産株式会社と三井不動産レジデンシャル株式会社と組んで、台湾で分譲住宅事業に着手しています(※6)。

※5:http://www.sumitomo-rd.co.jp/uploads/20180516_release_ONARIMONtower_shunko.pdf
※6:https://news.panasonic.com/jp/press/data/2018/08/jn180807-1/jn180807-1.html

三菱系と日立系が合体してできた三菱HCキャピタルの正体

続いて2021年に三菱UFJリース株式会社と日立キャピタル株式会社が合併してできた、三菱HCキャピタル株式会社の正体を探っていきます。

旧三菱UFJリースとは、旧日立キャピタルとは

旧三菱UFJリースは、三菱系の2つのリース会社である、ダイヤモンドリースとUFJセントラルリースが2007年に合併して誕生しました(※7)。旧三菱UFJリースは、航空機や海上コンテナ、風力発電、海底送電などでのリース事業を得意にしていました。

旧日立キャピタルは、日立グループの日立クレジットと日立リースが2000年に合併して設立されました。旧日立キャピタルは、ショッピングセンターを手がけたり、体育館建設に関わったりしています。また、新しい自動車事業であるモビリティ事業にも積極的に関わっています。

このように、旧三菱UFJリースと旧日立キャピタルは、得意分野があまり被りません。そのため合併シナジーが生まれやすい関係にありました。

 三菱系日立系
1971年旧三菱銀行や三菱商事、明治生命保険などがダイヤモンドリース株式会社を設立 
2000年 日立クレジットと日立リースが合併して日立キャピタルに
2007年ダイヤモンドリースとUFJセントラルリースと合併して、三菱UFJリースに 
2021年合併して三菱HCキャピタル株式会社に

※7:https://www.mitsubishi-hc-capital.com/pdf/corporate/corporate_profile.pdf
※8:https://www.mitsubishi-hc-capital.com/investors/library/security-report/pdf/062902.pdf

三菱商事も出資、だから何でもやっている?

三菱HCキャピタルの主な株主は以下のようになっています。

  • 三菱商事
  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ
  • 日立製作所
  • 日本マスタートラスト信託銀行
  • 日本カストディ銀行

三菱HCキャピタルの三菱側の源流には三菱商事があり、現在でも同社が深く関わっていることがわかります。

そして「世界の何でも屋さん」である三菱商事が出資しているからでしょうか、三菱HCキャピタルもかなり広範囲に事業展開をしています。

三菱HCキャピタルが関わる事業

  • 設備機器リース・ファイナンス
  • 中古機器の販売・買取
  • 再生可能エネルギー発電事業
  • 環境関連機器リース・ファイナンス
  • ESCO(Energy Service Company)事業
  • 医療機器リース・ファイナンス
  • 中古医療機器の販売・買取
  • 医療機器導入・経営支援コンサルティング
  • 不動産リース・ファイナンス
  • 不動産流動化
  • 不動産再生投資
  • 航空機リース
  • 航空機エンジンリース
  • 海上コンテナリース
  • 鉄道貨車リース
  • 船舶ファイナンス
  • オートリース
  • 社会インフラへの投資・ファイナンス
  • PFI事業
  • 企業投資事業

ユニークなのは、三菱HCキャピタル社内の事業本部に、事業統括本部や事業企画本部、法人事業本部などと並んで、日立グループ事業本部がある点です。

ここではその名のとおり、日立グループのための仕事をしています。例えば、日立グループ企業とのパートナー化の推進や日立ビジネスの強化などです(※8)。

三菱HCキャピタルは、社名から「日立」の2文字が消えて「H」に省略されてしまいましたが、日立のためにしっかり働いていることがわかります。

その他の三菱と日立の古い関係

三菱と日立は、三菱HCキャピタル以外でも連携しています。

例えば発電プラントなどを手がける三菱パワー株式会社は、2020年まで三菱日立パワーシステムズ株式会社という名称でした(※9、10)。

日立製作所が、三菱日立パワーシステムズの全株式を三菱重工に移転したので、社名から日立が外れて三菱パワーとなりました。

実は日立製作所と三菱重工には、経営統合の「噂」が立ったことがあります。日本経済新聞は2011年8月4日付けの「日立・三菱重工 統合へ 13年に新会社、世界受注狙う」という記事のなかで次のように報じています(※11)。

「日立製作所と三菱重工業は経営統合へ向け協議を始めることで基本合意した。2013年春に新会社を設立、両社の主力である社会インフラ事業などを統合する。原子力などの発電プラントから鉄道システム、産業機械、IT(情報技術)までを網羅する世界最大規模の総合インフラ企業が誕生する。 日立製作所の中西社長は8月4日朝、三菱重工業との経営統合に向けた協議を始めることを認めた。」

ただこの報道について三菱重工は全面否定していますし、その後、経営統合されたわけではありません(※12)。

しかし、裏を返せば、統合の噂が出てもおかしくないくらい日立と三菱は強くつながっていると考えることもできます。また、日立製作所が50%、三菱電機が30%、三菱重工が20%を出資する、日立三菱水力株式会社という、水力発電システムを販売している会社もあります(※13)。

そして、自動車メーカーでは、日産自動車と三菱自動車が提携していますが、この裏にも日立の存在が見え隠れします。

日本の旧財閥は三菱、三井、住友がよく知られていますが、第4位連合に日本産業コンツェルンがありました。日産と日立は、この日本産業コンツェルンの傘下企業でした。

日産と日立が近く、三菱と日立が近かったので、日産と三菱自動車の提携は違和感がなかったのです。

※9:https://power.mhi.com/jp/about/outline
※10:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000124.000025611.html
※11:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD030H3_T00C11A8MM8000/
※12:https://www.mhi.com/jp/notice/notice110804.html
※13:https://www.hm-hydro.com/corporate/overview.html

まとめ~日本らしいといえば日本らしい

財閥は解体され、系列の関係もすっかり薄まった感があります。しかし目を凝らしてよくみると、昔からの付き合いは今も続いていることがわかります。

三菱も、三井も、住友も、パナソニックも、日立も、日本を代表する世界的企業です。そしてグローバル展開と聞くと、どこかビジネスライクでドライな印象を受けますが、しかしそれぞれが旧知の関係を大切にしているようです。

だから日本企業はアメリカ企業のように世界で戦えない、ということもできますが、だから日本企業はしぶとい、ということもできそうです。